天皇弥栄(すめらぎ いやさか)  慶應義塾大学講師 竹田 恒泰
第14回 竹島・尖閣事件を国益に転じるために

■韓国大統領の暴走
  八月十日に韓国の李明博大統領が竹島に不法上陸をした。この日はロンドン五輪の開催期間中で、奇しくもこの日は日韓のサッカー男子三位決定戦の当日であり、しかも、日韓のバレーボール女子三位決定戦を翌日に控えていた。その上、サッカーの試合後に韓国の朴選手が韓国語で「独島は韓国の島」と書かれたプラカードを掲げるという暴挙を行った。
 そして、十四日には李大統領が天皇に謝罪を要求したと報じられ、十五日には香港の活動家が尖閣に不法上陸する事件を起こしている。そればかりか、李大統領は野田総理が宛てた親書を返信するという外交儀礼上あり得ない行動に出た。
 尖閣上陸事件を契機として、中国各地で反日デモが起こり、人民が次々と日本車を破壊し、日本料理店を襲撃していると伝えられる。さらに、二十七日には、丹羽中国大使が乗った公用車が襲撃され、日本国旗が奪い取られるという事件も発生した。
 この八月は、日本国民にとって、韓国と中国に対する激怒と失望の連続だったのではなかろうか。

■五輪を踏みにじった李氏と朴氏
 五輪は平和の祭典であり、大会期間中には戦争を止めるという理想がある。かつて、戦っていた兵士同士が武器を置いて競技に参加すると、殺し合いをしていたことが馬鹿らしく思えてきて、そのまま講和したこともあったという。李大統領が五輪開催中に、竹島に上陸し、国際紛争の新たな火種を作ったことは、五輪を冒涜する行為として糾弾されなくてはならない。
 しかも、五輪憲章は競技会場などでの政治的宣伝活動を一切認めていない。一九六八年のメキシコ五輪では男子二〇〇米走の表彰式で、二人の黒人選手が人種差別反対を訴える黒手袋を掲げる行為を行ったとして、国際五輪委員会は両選手を永久追放処分とした例がある。人種差別撤廃は人類共通の利益だが、それでも厳しい裁定が下された。まして、一国の領土権を主張するなど、五輪精神を屈辱する行為以外の何ものでもなく、英国では対韓感情が俄かに悪化しているという。
 また、元首が元首に宛てた親書を返送することは、戦争を控えた、あるいは戦争中の国同士でもあり得ない不敬な行為である。

■全ては日本の国益に繋がる
 このような忌々しい事件が相次ぐと、いくら温厚な日本人でも気分を害するだろう。しかし、考え方次第では、これほど愉快なことはないのである。
 竹島を実効支配しているのは韓国であり、韓国にとっては、あと五十年位波風が立たずに事が推移するのが一番の国益だったはずである。大統領上陸により、竹島の紛争の実態を広く国際社会に知らせる機会をえたことは、日本にとって実に好都合だった。李氏の愛国行動は、結局は韓国の国益を棄損する結果になったのである。
 また、天皇を屈辱する発言自体は看過できない問題だが、この発言によって、天皇陛下の訪韓があと百年は遠のいたと思えば、これほど愉快なこともない。宮沢政権下で強行された訪中の二の舞になることは明らかであり、民主党政権が水面下で進めていた陛下の訪韓が完全に頓挫することになったのは、日本の国益に叶うものであろう。
 竹島・尖閣の一連の事件のお陰で、これまで国防に興味がなかった若者ですら、領土保全の問題意識を芽生えさせた。これも有り難いことではあるまいか。この時期に防衛について国民的議論を起こして、防衛費増額を決定し、アジアの中で日本だけが毎年軍縮を続けている状況に歯止めをかけるべきであろう。それだけで、日本が中韓朝露に対して領土防衛の覚悟を示すことになるはずだ。
 眠れる獅子が目覚めようとしている。日本が普通の国になるための第一歩を踏み出す絶好の機会を与えてくれた李大統領に御礼を申し上げたい。