天皇弥栄(すめらぎ いやさか)  慶應義塾大学講師 竹田 恒泰
第12回 女性宮家創設にメリットはあるか

■男系と女系の違いを知らなかった官房長官
 平成二十四年三月十二日に行われた参議院予算委員会で、有村治子議員が、藤森官房長官に「男系天皇」と「女系天皇」の違いを問うたところ、官房長官は「男系というのは、天皇の、直系で、男子、ということだと思います」と間違ったことを答弁し、議場は「いい加減にしろよ」「そんなことも分からずに女性宮家の話なんか議論してるのか」などの怒鳴り声が飛び交い、一時騒然とし、議事が中断した。何と、官房長官は男系と女系の違いを知らなかったのである。
 官房長官の後ろに控える官僚が、慌てて書類を探し出し、暫らくして官房長官がそのペーパーを見ながら、ようやく「天皇と男性のみで血統がつながる子孫を男系子孫と言う。これ以外のつながりの場合を女系と言う」と説明した。
 一般の国会議員が知らないならともかく、官房長官は皇室典範改正法案が国会に提出される場合の法案提出責任者である。その本人が、男系と女系の違いを知らなかったことが判明したことは記憶しておかなくてはなるまい。

■女性宮家は陛下の御意思でないことが確認された
 この予算委員会では、もう一つ重要なことが明らかになった。有村議員が、羽毛田宮内庁長官は天皇陛下の御意思を受けているかを確認したところ、宮内庁次長が答弁台に立ち、天皇陛下は政治問題につき御発言になることはないと明言した。女性宮家創設が陛下の御意思であるという実しやかな噂が飛び交ったこともあったが、宮内庁次長の答弁により、それがはっきりと否定されたことになる。
 羽毛田長官は陛下の御意思を受けて発言しているというのは、これまで週刊誌などが繰り返し記事にしてきたことだが、その根拠はこれまで示されたことはなかった。天皇の御意思を持ち出して言論を封じるのは、皇室の政治利用に当たり、厳に慎まなければならない。宮内庁長官の発言は、立場上、そのように受け止められることがあるため、宮内庁長官の政治発言も、憲法上の問題があり、慎むべきである。

■女性宮家創設で御公務は軽減されるか
 またこの質疑では、野田総理が、女性宮家創設は「天皇陛下の御公務削減のため」であると繰り返して述べた。政府側が示す女性宮家創設の唯一のメリットは「御公務削減」である。
 しかし、そこには大きな嘘が隠されている。女性皇族方は、天皇の御公務を担う立場にない。昨年と今年の陛下の御入院で、その御公務を担われたのは主に皇太子殿下で、ごく一部を秋篠宮殿下がお担いになった程度である。しかも、結婚を控える女性皇族方は、全方、つい数年前まで未成年でいらっしゃったのであり、御公務などなかった。
 したがって、女性宮家を創設すれば陛下の御公務軽減に繋がるというのは、全くの間違いであることが分かるだろう。では、陛下の御公務を担えないのであれば、女性宮家を創設して一体どのようなメリットがあるというのか、甚だ疑問である。

■御公務軽減のためには
 天皇陛下の御公務は、先ず祭祀と年中行事で、年間の予定のほとんどが埋まり、その間を縫うように、各省庁から上がってくる要請に従って決められる。本来であれば宮内庁が的確に取捨選択すべきだが、どうも、わざわざ陛下の出御を願う必要のない行事も含まれているように思えてならない。
 陛下が御多忙であられるのも、ひとえに宮内庁の責任なのであり、女性皇族の人数の問題とは無関係であることは明確にしておきたい。
 政府が提言する女性宮家創設によって、皇統を担えない宮家を無理やり確保するのではなく、将来いざというときに皇統を担える男系の男子による宮家を確保する方法を考えるのが先ではあるまいか。何のための議論か、その目的を見失ってはいけない。